夕暮れの風が涼しく虫の声が楽しい季節となりました。
「競技会」のフランス語にあたる「コンクール」。今や国際コンクールのほとんどがライブ配信され、居ながらにして音楽を楽しめるようになっていますが、実際のコンクール会場は独特の緊張感や高揚感にあふれています。
今日はこの夏都内で行われた二つのコンクールをご紹介します。演奏スタイルは、どちらも協奏曲ー独奏楽器とオーケストラのための作品ーです。
まだ酷暑だった8月17日(水)、赤坂のサントリーホールにて第46回ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナルが開催されました。
指揮:飯森 範親
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
~ 結果~
第1位・聴衆賞
北村 明日人 東京藝術大学大学院
ベートヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58
第2位
神宮寺 悠翔 東京藝術大学音楽学部附属音楽高校2年
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
第3位
森永 冬香 東京藝術大学3年
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
第4位(入選)
鶴原 壮一郎 東京藝術大学2年
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
チャイコフスキーの協奏曲を今年も高校生が弾くのだから驚きです!!この日は定番のラフマニノフやプロコフィエフがない代わりにチャイコフスキーが続けてお二人。ラヴェルはお祭り的な華やかさと哀愁をそなえた作品。
ベートーヴェンの4番は重量感あふれるべートーヴェンの協奏曲の中では流麗かつ革新的な作品ですが、古典が他を抑えたことにいかにこの日の北村さんの演奏が好演であったかがうかがい知れると思います。
ファイナル進出の4名を含む二次予選以上の出場者の演奏は、ピティナのアーカイブで視聴することができます。
かわって、こちらは第20回東京音楽コンクール ピアノ部門本選、8月28日(日)東京文化会館大ホールにて。
~結果~
第1位・聴衆賞
中島 英寿
第2位
藤平 実来
第3位
吉原 清香
第4位(入選)
角野 未来
ショパン、シューマン、リスト、というロマン派の同世代三人の作品が集まりました。
シューマンはうっとりするように美しい作品ですが、構成力やオーケストラとの合わせの難しさなどから、私の知る限りコンクールでの演奏頻度はあまり高くありません。ショパンはみなさんもとてもよくご存じですね。リストは比較的短い演奏時間の中に技巧や魅力がぎゅっと詰まった作品。
リストを弾かれた中島さんは、若々しさと安定感のバランスが見事でした。
ファイナルの舞台を通して感じたことです。
演奏中はつい 音楽に没入して、指先のコントロールや表現などの「予定」を実践することに意識が行きがちですが、その場のライブの響きを瞬時に演奏に活かせる冷静さを保つことが大事で、しかも協奏曲というアンサンブル作品に対しての経験がほとんどのコンテスタント(コンクールを受ける人)は豊富とは言えず、響きの中にいかに自分の音や自分自身を溶け込ませられるか、普段からスコアの研究と音のイメージを明確に持っておく必要があります。それも、次のステージに進めるのかもわからない中でファイナルまでの準備を進めないといけないのですから、体力的にも精神的にも相当タフでないと乗り切れないでしょう。何て過酷な!!
でも、コンクールという目標に向かって辿ってきた道がすでに貴重な経験になっていると思います。
余談となりますが、今回のサントリーホールと東京文化会館には、小さなお子さんも多く来場していました。
文化会館で私の前の席だった女の子はまだ4~5歳くらい。途中うつらうつらしていましたが、最後まで落ち着いて聴いていましたし、その向こうには低学年位の男の子が背筋をぴんと伸ばして時折リズムを取りながら聴き入っています。聴衆の多くが大人というフォーマルな場に、熱心なリトルピアニストたちが混じっているのはピアノコンクールのファイナルならではの光景、良い文化ですね!
この日のピアニストたちの姿や音は子どもたちの脳裏に焼き付いたことでしょう!
最後に…
上野と言えば「パンダ」ですが、私の中では「東京文化会館!」と言いたい😊 老舗の風格。
さて、このあとは日本音楽コンクールも始まります。
予選は9月17日(土)から文京区のトッパンホールにて、本選は10月22日(土)初台のオペラシティ。前売りチケットもまだあるようです。