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第90回 日本音楽コンクール|~本選会を聴いて~

昨日10月24日に、第90回日本音楽コンクールピアノ部門本選会が、東京オペラシティ・タケミツホールにて行われました。

一昨日のヴァイオリン部門から幕開けした日本音楽コンクールの本選会。ホール内に一席ずつ空けて設けられている客席は満席です。

ピアノ部門には、先月の最終予選を勝ち抜いた4名のコンテスタントが出場しました。

 

 

高関健指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が共演。

 

 

1.谷昴登  桐朋女子高等学校(男女共学)3年

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23

 

この数年の飛ぶ鳥を落とす勢いの谷さんに、チャイコフスキーの1番は言うまでもなく最適な選曲。序奏の和音の連続から、迷いも気負いもなく、高貴さすら感じさせます。トップバッターの常で、第1楽章はオーケストラがまだ乗りきれていない印象ですが、ソリストとして圧倒的なエネルギーで全体を引っ張っていきます。第2楽章の甘美なこと。第3楽章のテーマは、オケからもらったリズムに、より舞曲らしさを加え遊ぶ余裕さえあり、高い技術に支えられた風格のある演奏でした。昨年のピティナコンペティションの特級ファイナルのときより、演奏はさらに抒情性と冷静さが増し、力強さのバランスが進化しています。

 

 

 

2.佐川和冴 東京音楽大学大学院修士課程1年

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467

 

最終予選での、リスト「死の舞踏」の骨太で魂のこもった演奏から、ファイナルの選曲は、リストかロシアものか…と想像していましたので、モーツァルトは正直意外でした。でも演奏を聴いて納得。表現力の豊かさもさることながら、オーケストラとの一体感か素晴らしい。通常ピアノは打鍵から発音までが「瞬」で、オケの場合は、やや立ち上がりに時間がかかるものですが、その合わせ方が絶妙で、ころころと粒立ちの良い選りすぐった音色で、シンプルなモーツァルトの世界を彩ります。何より、ご本人が幸せに満ち溢れて弾いているのが素敵でした。

 

 

3.藤平実来 東京音楽大学4年

ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調

 

あまりに自然な音楽語法と美音に、思わず引き込まれてしまう藤平さんの演奏。ファイナルでの、ジャズ風で即興的なラヴェルのコンチェルトはよく考えられた選曲です。オケとの掛け合いも愉しげで、混沌とした世界に少年が一人歩き、さまざまなことを体験し成長していく、まるで作品の中に藤平さんがいるような錯覚に陥ります。技術を表現の中に落とし込んでいるため、難しいことをしていると感じさせません。イングリッシュホルンと作りだす第2楽章が極美でした。

 

 

4.高倉圭吾 東京藝術大学修士課程2年

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18

 

第1予選から最終予選まで、常に端正な演奏を聴かせてくれた高倉さんは、人気の高いラフマニノフの2番のコンチェルトを選曲。第1楽章は常に抑制した表現でくっきりとした主張を持ちつつも、なめらかなタッチで聴かせます。心に染み入るような美しさと、どこかほの暗さも感じられる第2楽章。第3楽章で明瞭さを増すタッチ、ラストのハ長調に向けてオケと混然一体となってエネルギーを増大し、これまでの「想い」を爆発させる、劇的な大団円でした。

 

 

ピアノ仲間の先生方ともに、1位予想はモーツァルトを弾かれた佐川さん。または、谷さんと佐川さんのどちらか、でした。

藤平さんと高倉さんも本当に素晴らしかったのですが、前のお二方が、ほかの方の一歩先をいく印象。あとは審査員の好みでしょう。

 


【審査結果】

 

第1位 谷昴登

 

第2位 佐川和冴

 

第3位 高倉圭吾

 

入選   藤平実来

 

岩谷賞(聴衆賞)

谷昴登

 

 

 

*本選会の報道・放送予定* 

 

◆採点公表

11月17日(水)『毎日新聞』朝刊

「第90回日本音楽コンクール特集」に掲載

 

◆NHK BSプレミアム「クラシック倶楽部」

12月14日(火) 5:00~5:55 ピアノ部門

 

◆NHK Eテレ 「ドキュメンタリー」

12月12日(日)14:30~15:30

 

◆NHK-FMラジオ

11月11日(木)19:30~21:10 

 

◆NHK BS8K「第90回日本音楽コンクール本選会」

2022年 1月10日(月)~14日(金)19:00~

 

 

 

 

国内にあまたあるコンクールの中でも、最高峰の日本音楽コンクール。

私にとっては、小学生の頃からテレビでドキュメンタリーを見て、高校生になると本選会に足を運び、コンクールが何たるものかを知ったのも日本音コン(当時は「毎コン」と呼ばれていた)でした。

大学生になってからは、伴奏者として予選から本選へとさまざまな方と舞台に乗り、そして、ここ10年ほどは、指導にたずさわる者として拝聴し勉強させていただく機会となっています。

 

「コンクールは一次予選が大変…。」

ある審査員の先生のお言葉ですが、私も本当に共感します。一次予選では、たとえよく弾けていても、多すぎる人数の中では埋もれてしまうことも。二次以降ではライバルも減り番狂わせも少なくはなりますが、いずれにせよ厳しい世界です。彼らの努力がきっと報われますように。

 

素晴らしい演奏を聴かせてくださった入賞者たちには、心からの敬意と祝福を。ここを通過点として、彼らがまた、さらなる高みに挑戦し、活躍されますように。