Nighfallーナイトフォール
夜の帳(とばり)が降りてゆく、昼と夜の狭間の時間ー
日の出前のまだほの暗く、地平線だけがやわらかな光に満ちる時や、日没後の、あたり一面黄金色のグラデーションに包まれる黄昏のことを「トワイライト(twilight)」と言いますが、トワイライトの薄明りから群青の色が濃くなり、夜に変わった時間を、「ナイトフォール(nightfall)」と言うことを最近知りました。
オペラの稽古では、本番が近くなり、それまでピアノで行っていた歌手の音楽稽古がオーケストラに変わると、ピアニストは裏方のお手伝いにまわることがあります。私も、公演によっては照明の<キューだし(楽譜を見ながら合図を送る役目)>や、字幕やビデオ制作の<キューだし>をしました。
ある日の稽古の休憩中、その舞台の照明家の方が階段の踊り場から外の空を見上げるように佇んでいました。
その方の照明は、ハッとするような清らかな月夜や、黒よりも暗く深い闇の世界、登場人物の心が映し出されたような激しさや幸せなやわらかさをかもしだす、魔法のように素晴らしい明かりなのです。
「どうされました?」私が声をかけると、「あの色が、ほしい…。」
黄昏色から変わる空の、何とも言えない、薄赤、むらさき、青の色から目を離さず真剣な面持ちで、「かなわないんだよね、やっぱり自然には。」と。
普段は、言葉少なく、仕事に対してもとても厳しい方が、思わずもらした、一言でした。
今でも美しいナイトフォールに出会うと、照明家さんのあのときの言葉を思い出します。